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「フランスで生きていくには、フランス人になるしかない」

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ソフィの家に暮らし出して最初に「あれっ・・・」と思ったのは、3日目ぐらいのことだった。

専用と聞いていたバスルームは実際には末息子やほかの同居人との共有。それでも過去、短期間だけだがイギリスでこういう居候暮らしをしたことがあるわたしは、自分用のシャンプーやリンス、基礎化粧品、タオルをその時に倣ってバスルームに置いた。スペースは十分にあったし、自分の部屋に置くものでもないと思った。

ところがある日、外出から帰ってくると、基礎化粧品や歯ブラシ等を入れておいたボックスが下にバラバラになって落ちていた。洗面台の上にある棚に置いていたもので、重さの軽いものしか入れていなかったし、バランス良く置いていたし、ボックスと棚の大きさからいうと落ちるはずがなかったものだった。

「置いておくなということか」そう考えた。でももしそうなら口で言えばいいじゃないか。なんていやらしい・・・いや、きっと猫だ。猫のマオがイタズラしたに違いない。わたしはそう思うようにして、それでもそれらを自分の部屋へ置くことにした。

その1ヶ月後ぐらいだったか、マオは洗面台より高さの低いスーツケースにさえ飛び上がれないことを知った。


ソフィの家での滞在が残り2週間ぐらいになった時のこと。洗濯が終わった頃を見計らって洗濯室へ行くと、床中が水浸しになっている。ソフィ夫妻は外出中。わたしは大慌てでモップで床を拭き出したが、間に合わない。それで自分のバスタオルを持ってきてそれで床を拭いた。そうしているうちに彼らが帰ってきて、ソフィは慣れている様子で「わたしがする」といってわたしの手からバスタオルを取って床を拭き出した。

水漏れの原因は、ホースが蛇口からはずれていたせいだった。ソフィはわたしにバスタオルは洗って返すという。床を拭いたことがあるもので体を拭くほどわたしは無神経ではない。捨ててしまってくれてかまわないと言った。彼女は「洗えばいいのに」と返してきただけで、ありがとうともごめんねとも言わず、もちろん買って返すということも思いつきもしなかったようだ。


あと数日で帰るという日、わたしは彼女に「洗濯機を使いたい」と言った。10日間ほどずっと洗濯機には彼らの洗濯物が入りっぱしで使えなかったのだ。わたしはほとんどを手洗いしていたが、ジーンズなどは手で絞るのは無理だからそういうものが溜まっていた。それで言ったのだったが、彼女は「今日はダメ。わたしが使うから、あなたは明日にして」という。彼女はその日、洗濯機を回し、洗い上がりのブザーを聞いてから出かけて行った。それを出してくれさえすれば、わたしはその日、洗濯ができたのに。

翌日、わたしは洗濯機を使った。洗剤と柔軟剤をたっぷり入れて、洗濯機が回り出し水が洗濯機に投入されたのを確認してから洗濯室を出る。終わった頃を見計らって洗濯室へ行った。思った通り洗濯は終わっていて、電源が切られ、ふたがあいていた。ふたが開いていたのは手前にあるキッチンにずっといたソフィが開けたのだろう。ふたがしまったままだと洗濯物は臭くなる。

ただ、洗濯機から洗濯ものを取り出している時に、ひとつのことに気がついた。洗濯物は湿っているものの、洗濯ものから洗剤の匂いがしない。全くしない。柔軟剤の香りもこれっぽちもしない。そんなことはこれまで一度も経験したことがない。

洗剤を入れるボックスは空になっていたので、洗剤は確実に中へ投入されている。なのに洗濯ものから洗剤や柔軟剤の匂いがしない理由、それはひとつしか考えられない。洗濯機をいったん止めて設定を解除されたのだ。水洗いに変えたのか、それともそれさえされていないのか。わたしはもう諦めの境地でそこから引き上げた。

ソフィの家ではこれら以外にもいろんなことがあった。そのたびにわたしはそれらを「ゴミ箱に」入れて「ふた」を閉めてきた。

パリで行った美容院のオーナーはフランス人だが「stupid」という言葉を使ってフランス人を表現していた。

パリに暮らして20年というブティックの香港人オーナーは「日本はパリと同じように物価が高い。だけど日本ではサービスが付加価値としてついてくる。フランスではそれがない」と残念そうにつぶやいていた。

彼はこうも言った。

「フランス人はとてもrude。でも、ここで暮らして行くには、自分もフランス人になるしかないんです」


rudeとは、無礼、無作法、無教養という意味である。

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by yukaashiya | 2012-11-28 21:38 | フランス生活編


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